神鳥の卵 番外編1:大晦日


こたつに潜り込み、みかんを食べて。
半纏を着てぐったりのんびりテレビを見る。

「ああ、正月だなぁ」

しみじみとスザクは言った。
その膝の上には赤ちゃん用の半纏を着て、スザクが剥いたみかんを一生懸命頬張っているルルーシュ。「これが日本の正月なのか?というか今はまだ大晦日で正月は明日だろう」と疑問に思いながらも、スザクが幸せそうならいいかと、小さな口を大きく開いてもぎゅもぎゅとみかんを食べていた。 ルルーシュは10歳の頃から日本にいるが、日本らしい正月は戦争後無くなったため、今年はじめて日本らしい正月を体験しているのだ。大晦日のテレビ番組は何が面白いのかいまいち解らないが、みかんは美味いし、こたつもなかなかのものだ。スザクの膝の上は暖かく座り心地がいい。
何よりスザクの機嫌がいい。
だからルルーシュもご機嫌だった。
もぎゅもぎゅごくんとみかんを飲み込む。

「はいルルーシュ」

ルルーシュが食べ終わると薄皮も剥いたみかんを一粒手渡す。
咲世子が取り寄せてくれた最高級みかんはとても甘く、小さなルルーシュはもぎゅもぎゅもぎゅと食べ続けていた。冬の間にみかんをたくさん食べておけば風邪を引かないのだとスザクと咲世子も言うため、水分補給の代わりに口にする。
スザクはそんなルルーシュの口元から零れたみかんの汁とその手をタオルで丁寧に拭きながら「あー幸せだな、こんな幸せな正月初めてだ」と、のほほんとした笑顔で言って、むぐむぐとみかんを食べるルルーシュをギュッと抱きしめた。
その姿はナイトオブセブンやナイトオブゼロだったスザクからは考えられないほど穏やかで、当時のスザクを知る者がみれば、どうしてこんなに丸くなったんだと驚くことだろう。ルルーシュからしてみれば、再会時のスザクが戻ってきただけだし、可愛い物好きなところがあるスザクは赤ん坊も好きなのだという新たな認識が増えただけで、「ゼロの激務で疲れてストレスも溜まってだろうから、赤ん坊の俺で少しは癒やされるというなら、好きなだけかまっていいぞ」と、ベタベタに構ってくるスザクを諌めることはなかった。
今までこんな風に甘やかされたことはないので、くすぐったい気はするが悪い気はしないと思っていた。そのせいか、ルルーシュの顔ものほほんとした笑顔になっている。
テレビから流れるのは、エリア11となる前の日本ではありふれた正月番組で、日本の名前を取り戻すとすぐにこれらの番組も復活したため、懐かしいと思いながら見る者、初めて目にし物珍しげに見る者の効果で、高視聴率を叩き出しているらしい。
戦争前まで有名な歌手だった人たちが、戦争後再び芸能活動を再開したことで懐かしの歌が必ず何曲か歌われる歌合戦も高視聴率なのだとか。ルルーシュが知っている歌は残念ながら無いが、スザクは「懐かしいなぁ」と時々言っているので、かなり有名な歌なのだろうとは思っている。
もぎゅもぎゅとみかんを頬張っていると、スザクが時計を見て思い出したかのようにチャンネルを変えた。その瞬間、ルルーシュは口の中のみかんを驚きのあまり飲み込んだ。むせなかったのは奇跡だろう。そのぐらい驚いたのだ。
画面の向こうにはナナリーが写っていた。
ナナリーは美しい着物を着ていて、髪も綺麗に結い上げられていて、その姿はとても大人びており「ナナリー!ああ、なんて美しくなったんだ。着物もよく似合っている」と、ルルーシュのテンションは一気に上がった。

「この時間、ナナリーが年末番組に出演することになってたんだ」

忘れてたよ。と言いうスザクに「こんな大事なことを忘れるだと!?この馬鹿が!!」とルルーシュはスザクの腕をペコリと殴り、じろりと睨みつけた。
可愛い赤ん坊が弱い力で殴ったり、睨んだ所で可愛いだけなので、スザクは幸せそうな笑みを崩さなかった。

「ごめんごめん。でもほら、ちゃんと録画予約しているからね。5分ほど見そこねちゃったけど、後でそのへんはじっくり見たらいいよ」

録画という言葉を聞いて、ルルーシュは視線を画面に向けると、録画中を示すランプがカチカチと光っていた。「ス・・・スザクが録画予約だと・・・!そんなことが出来るようになっていたのか・・・お前はこの手の機械は絶対扱えないと思ってたのに」そんな失礼なことを平然とルルーシュは投げかけてきた。

「酷いよルルーシュ・・・確かに僕には出来なかったんだけどさ・・・咲世子さんがやっていってくれたんだよ」

本当は自分でと意気込んで、昨夜正月特番が載った雑誌とにらめっこして、テレビのリモコンをいじっていたのだが、1時間ほどあれこれやっても上手く行かず、見かねた咲世子がほんの数回リモコンをいじっただけで予約してしまった。有能な咲世子に感謝するべきか、横取りされたことを怒るべきかあの時のスザクは少し複雑な心境だった。「なるほど、咲世子か。なら安心だな」と言いたげなルルーシュに、これがスザクの予約なら別のチャンネルの可能性があったり、途中でとまったりする可能性があって不安だったというのがありありと見えて、少し凹んでしまう。
今はもう20時を回ったというのにテレビ画面の向こうはまだ朝で、この映像がブリタニアからのものだということがわかる。時差を考えれば早朝だろう。カウントダウンと新年の挨拶も予定に入っていたから、このままもうチャンネルは変わらないだろうとスザクはリモコンを片付けた。
ルルーシュはキラキラとした瞳で食い入るようにナナリーを見つめている。
むしろツッコミが入らないところを見ると、ナナリーしか見えていないらしい。ナナリーが絡むととたんに視野が狭まったのは赤ん坊だからなのかなと思いながら、ルルーシュ用に剥いていたみかんを口に入れた。甘い果肉が口の中に広がり、今度ナナリーに贈ろうかなと考えていると、ようやくルルーシュの視界が広まったようだ。
テレビ画面を見ていたスザクの裾をグイグイと引っ張り見上げてくるルルーシュの顔が困惑していた。「スザク!見ろ!お前がここにいるのにナナリーの後ろに!!」指をさしながら訴えてくるルルーシュに、ああ、あれね。やっと気づいてくれたんだとスザクはにっこり笑いかけた。

「あれ、咲世子さんだよ」

そう、ナナリーの後ろにはいつも通りゼロが立っているのだ。中の人はスザクでなければいけないゼロが。そして咲世子という言葉を聞いた瞬間に、ルルーシュの顔はこわばった。それを見てスザクはどうしたのと首を傾げる。「スザク・・・咲世子は天然なんだ」と、ルルーシュは悲痛な表情で訴えてきた。当然言葉なんてしゃべれないから口からは「しゅぁぅ、さぉぉあぁぅぁ」と、何言ってるかさっぱりわからない言葉が可愛らしく紡がれている。

「天然?」

きょとんとしたスザクに、「ああ、知らないのかスザクは」と、ルルーシュはどこか遠い目をした。その後語られた(しゃべれないけど)咲世子の天然ぶりはスザクを遥かに超えるもので、108人とのデートやシャーリーとのキス、更には体力が壊滅的なルルーシュを演じているにもかかわらずトンデモな身体能力を披露し、周りの度肝を抜いた話を聞いたスザクは完全に顔を引きつらせていた。

「えーと、今日は4月1日じゃないよね」

どう考えても大晦日。
エイプリルフールには程遠い。
そしてこんなに遠い目で語るルルーシュが嘘をついているとは思えないし、何よりこの会話?はルルーシュの本心がだだ漏れのため、そもそも嘘を疑う必要など無い。と言うとこは実際にあったのだ、そんなことが。「・・・何事もなければいいな」という顔で再び画面を見始めたルルーシュに「そうだね、C.C.も向こうにいるからなんとかなるよ」と返すことしか出来なかった。
年末年始ぐらいお休みくださいという咲世子が、サポートにC.C.がいればいいからとピザ10枚でC.C.を懐柔し「朝一で私は戻ってくるからな」と、睨んできたC.C.と咲世子を見送ったのは昨夜遅く。咲世子が事前に用意したこの隠れ家で幸せいっぱいだった気分をまさか咲世子に壊されるとは。
そしてその後ルルーシュの不安は的中し、ゼロでは絶対に拒否するようなマラソンに参加したり、曲芸まがいのことをしたり、クイズ大会に参加したりと、さんざんゼロのイメージを壊してくれた。ルルーシュは途中で眠気に負けてスザクの膝の上で就寝してしまったが、ある意味目が離せないその番組を、スザクは顔を引きつらせて番組終了時間まで徹夜で見ていた。
驚いたのは、あの番組で今まで頭が固くて恐ろしい人物と思っていたゼロが、実はおちゃめで楽しい人なんだと知りました。という好意的な意見が増え、ゼロの支持率が一気に上がった事だった。